1988.8.1
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宮王肩衝茶入 |
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大名物(おおめいぶつ)
宮王肩衝茶入
(みやおうかたつきちゃいれ)
茶の湯の世界では、濃茶(こいちゃ)を入れる小さな容器のことを茶入といます。そもそも茶入れは、鎌倉時代の初期、臨済宗の僧栄西が中国の宋より茶の実みをその中に入れて持ち帰り、栂尾(とがのお)の明恵(みょうえ)上人に贈ったことに始まるといわれます。以来、茶の湯が盛んになるにつれて、禅僧たちの手で多くの茶入が日本へもたらされました。もちろん、彼地で、はじめから茶入として作られたわけではなく、香料や調味料などをいれるための小さな容器が、日本で茶入に見立てられたということでしょう。
これら中国でつくられた茶入を唐物(からもの)茶入と総称しますが、やがて、日本でも瀬戸などにおいて茶入を制作するようになり、茶入に唐物と和物の2つの潮流が生まれました。そして千利休(せんのりきゅう)の頃、茶入は掛物とともに茶道具の双璧をなす重要な位置を占め、1個の名茶入が軍功にかえて拝領されたり、逆に献上品となることがしばしばあったようです。
ここに紹介する宮王肩衝茶入も、そうした由緒をもつ名茶入の1つです。宮王肩衝茶入は、もと朝倉九郎左右衛門の所持、のち宮王太夫(みやおうだゆう)に伝わり初めて「宮王肩衝」の名が出ました。天正11年(1583)宮内卿法印あら豊臣秀吉に献じ、元和元年(1615)大坂城落城の際、徳川家康がこれを得て、井伊直孝(いいなおたか)に授けたものです。井伊直孝は当時彦根藩2代藩主。大坂の陣での戦功めざましく、宮王肩衝茶入の拝領は、その論功行賞の意図があったのでしょう。こうして、幾多(いくた)の変換をたどった名茶入も、終に井伊家の手中にあって他に渡ることなく、代々重宝として大切に伝来してきました。現在は関東大震災の猛火をくぐりぬけた、大きく重い欅(けやき)のくりぬきの箱に収められています。
宮王肩衝茶入は、やや大ぶりの唐物茶入。中国・宋時代の作。肩の張った形から肩衝茶入の名があります。口は大きくて捻返(ひねりかえ)しが強く、胴の中位に一条の沈線(ちんせん)(胴紐(どうひも))が廻っています。紫に茶味を帯びた地肌に、黒飴色の釉(うわぐすり)が淡くかかり、茶・黄・青瑠璃(るり)色の美しい変化をみせています。なかでも、両肩から発して胴紐下で合流する頽(なだ)れは面白く、この茶入の正面(置形(おきがた))を決する景色(けしき)となっています。東山名物やこれに準ずる名物中でなお貴重なものを大名物と称しますが、宮王肩衝茶入は、相好円満で落ち着きがあり、大名物の名に値する風格のある茶入ということができるでしょう。
(谷口)
《生誕150年》
日下部鳴鶴(くさかべめいかく)
−その人と書−
期間 1988年7月30日(土)〜8月25日(木)近代日本の書道史に革新的な足跡を遺した日下部鳴鶴は、その後の書家に大きな影響を与えました。鳴鶴は、天保9年(1838)彦根藩士田中惣右衛門の次男として生まれ、のちに、同藩士日下部家の養子となり家督を嗣いでいます。かれは、幕末の彦根藩が多難な時期に青年期を送り、藩のため東奔西走するかたわら、書の研究への志をあたためていたようです。しかし、明治維新を期に、31歳のとき東京へ出て、新政府の太政官の官吏となるとともに、書の研究に励むこととなりました。
明治維新後、彦根から東京へ出て活躍した人は多く知られていますが、とりわけ鳴鶴の業績は、郷土彦根のみならず近代日本書道の発展を語る上で欠くことの出来ないものと言えましょう。この小企画展は、彼の生誕150年を記念して、その偉業を紹介するものです。鳴鶴の彦根藩士時代から晩年に至る業績をたどりながら、鳴鶴の人物像を浮彫りにし、またあわせて、その格調高い書風の遺作や、草稿・遺品・雅印を集め、36点の資料を展示します。是非この機会に、近代書道の原点といわれる鳴鶴の書をご清鑑ください。
■講演会
1988年8月6日(土) 午後2時から
「日下部鳴鶴−その人と書−」
講師 日本書道教育学会会長
文学博士 石橋 啓十郎氏(号犀水(さいすい))
水
期間 1988年7月8日(金)〜8月25日(木)
生命にとって最も大切な水。限りない恩恵を与えてくれる水は、その反面、洪水にみるように破壊的な力の象徴でもあります。この両極端の性格をあわせもつ水は、その間に、さらに豊かな様々のイメージをたたえて私たちのまわりをめぐっています。
ところで、日本の文雅の世界では、水はどう扱われてきたのでしょうか。今回は、夏にあわせて、水や、水辺の風物をとりあげ、それらが種々の造形作品にどのように表現されているか、という視点から、井伊家に伝わった能装束・茶道具・絵画などを展示しています。そこでは、水は、あくまでも変化に富んだ姿に表され、草花や魚などと組み合わせて、優美な表情をみせています。情趣ある和様美の世界をお楽しみください。