1989.8.1
|
|
花入文様更紗 |
|
|
|
|
|
-インドから日本へ-
花入縞文様更紗(はないりしまもんようさらさ)ちかごろは、エスニックといわれるような、鮮やかな色調と、幾何学的または躍動感のある模様の服やスカーフ、袋物などがこのまれています。のびやかで、規格化されていないデザインや、手作りの味わいにひかれる人が多いのでしょう。
ところでインドや東南アジアの文様は近年初めて日本に入って来たわけではなく、江戸時代の初めにはすでに知られていたといえます。インドを発祥地とする文様染の布、更紗が、ヨーロッパ人がインドで行った貿易活動を通じて日本に輸入され、衣服や敷き物などに取り入れられました。当時はまだ珍しかった木綿布の軽やかな手ざわり、赤や藍(あい)、黄などの鮮やかな色彩と異国趣味にみちた文様が人々の心をとらえたのでしょう。更紗はその後も幕末に至るまで様々な種類のものが輸入されましたが、17、8世紀のうちに入って来た、主にインド更紗には手の込んだ上等なものが多く、「古渡(こわた)り更紗(さらさ)」と呼ばれて、茶人の間で名物裂(めいぶつぎれ)として珍重されるようになります。
表紙写真の更紗は茶道具を包む風呂敷として井伊家に伝来したもの。古渡り更紗の中でも類品の多い文様で、緑と白の縦縞の中に、2種類の草花文様を交互にあらわしています。このように、縞文様の間に花などを配するのは、インドの伝統的な文様構成の1つです。
インド更紗の染め方は、鉄塩などを媒染剤(ばいせんざい)として利用し、1種の染料を様々に発色させ、定着させる技術が大きな特色となっています。今ではインドでも化学染料が使われ、古典的な更紗の染色法は失われているといいますが、これまでの研究を参考にすると、この更紗では、まず文様の輪郭に鉄塩、花に明礬(みょうばん)を型を用いて塗り、茜(あかね)に浸してそれぞれ黒と赤に発色させます。水洗の後、今度は染めたい部分以外を ろう (ろう)で防染して藍と黄色系染料に浸し、葉・茎の藍と地色の緑を染め出したものと考えられます。
縞と草花文様の繰り返しによる快いリズム、赤と緑の鮮やかな対比、親しみやすく、魅力的なデザインです。よく見ると明礬を塗り忘れたのか、白地のままの蕾(つぼみ)もあり、インドならではの大らかで素朴な味わいといえましょう。
古渡り更紗の裂集として代表的なものに、井伊家に伝来したことからその名がある彦根更紗(東京国立博物館蔵)があげられます。様々な更紗裂が含まれている中で、特に扇や巴、菊、紋散らしなど日本的な文様が多数みられることが特色です。日本市場向けに作られたといわれ、日本的でありながら異国情緒を漂わせたユニークな更紗に、当時の好みがしのばれます。
今残っている古渡り更紗の多くは、もとは反物などだったものが、茶道具の仕覆や風呂敷、あるいは小袖や帯などに仕立てられ、小裂となって伝来しています。高価な舶載染織品として、わずかな裂も大切にされ、いつくしまれてきたといえるでしょう。
(竹村)
秋の企画展
彦根更紗
期間 1989年10月20日(金)〜11月26日(日)彦根更紗は、もと彦根藩主井伊家に伝来したことから彦根という地名を冠して呼ばれている「古渡(こわた)り更紗(さらさ)」のコレクションです。日本では、近世初頭以来、幕末に至るまで様々な更紗が輸入されましたが、その中でも、17世紀から18世紀にかけて輸入された、主としてインド更紗を「古渡り更紗」と呼んで特に珍重してきました。このようなインド更紗は、16世紀以降インドに進出したヨーロッパ人によって世界各地に広まったもので、文様も輸出先の国の好みにあわせて様々なタイプのものが作られました。
全部で450枚にのぼる彦根更紗の裂(きれ)の中には、銀杏(いちょう)や巴(ともえ)文様など日本向けと考えられるもののほか、天使や大柄の花鳥を描いたヨーロッパ向けのもの、またタイやインドネシア向けのものなどが、それぞれ種類も豊富に含まれ、収集範囲の幅と奥行きが感じられます。古渡り更紗の代表的な裂見本集ともいえるでしょう。
この企画展では、これまで数点ずつしか展示される機会のなかった彦根更紗をまとめて展示し、反物(たんもの)などの状態で残っている更紗や更紗裂(さらさぎれ)をぬい合わせた帯などとあわせて、古渡り更紗の魅力をご紹介します。ぜひご鑑賞ください。
■講演会
1989年11月4日(土) 午後2時から
「彦根更紗について」
講師 調査員 小笠原 小枝氏
松原内湖(まつばらないこ)
−大地からのメッセージ−
期間 1989年9月1日(金)〜10月15日(日)彦根市内の松原内湖で、発掘調査が始まって今年で5年目。これまでに、縄文時代(じょうもんじだい)から江戸時代にいたる人々の生活の跡や道具が、たくさん発見されました。なかでも、小銅鐸(しょうどうたく)や蓋(きぬがさ)・短甲(たんこう)・琴(こと)・農具などの木製品は、話題を呼びました。今回は、これらをはじめとする調査成果を、滋賀県教育委員会・滋賀県文化財保護協会の協力を得て紹介します。
■講演会
1989年9月30日(土) 午後2時から
「松原内湖を掘る」
講師 滋賀県文化財保護協会技師 吉田 秀則氏