1990.5.1
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慶俊の笙 |
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慶俊の笙
井伊家伝来資料の中に、一群の雅楽を中心とする音楽関係の資料があります。これらは、12代藩主井伊直亮(なおあき)(1794〜1850)が収集したもので、質量ともに豊かな内容をそなえ、日本有数のコレクションとして知られています。
直亮は、雅楽になみなみならぬ興味をもち、京都の楽家から各種雅楽器の演奏や曲を伝授されるほどでした。またその一方で熱心に古楽器の収集につとめ、一大コレクションとしたのです。その内容は雅楽器のほぼ全般にわたります。
雅楽器を代表するのが笙です。
笙は奈良時代かその直前に中国から伝えられた管楽器で、奈良の正倉院には古式の笙が伝えられています。その形は匏(ほう)とよばれる木製漆塗りの椀形の器の上面に、長短17本の竹管が差し込まれ、銀製の帯金具で締められます。竹管の根元には響銅(さはり)と呼ばれるリードがとりつけられ、ハーモニカと同じ原理で音が鳴り、演奏するときは両手で匏を捧げもって、吹口から息を吹き込んだり吸ったりして奏でます。
井伊家には30余点の笙が伝えられてきました。この中で一番古いのが「元永丸(げんえいまる)」の銘のついた笙です。
笙には、その竹管に銘文の記されていることがあります。
この笙には、「元永元年(1118)上皇が熊野山に御幸(ぎょこう)するにあたり、宝物とするために、仰せにより慶俊が新たにこれを作った」という意味のことが記されています。この銘文により、制作された年、その目的、作者の名が明らかです。銘文の中の上皇は白河上皇をさします。上皇はこの年、閏9月から10月にかけて和歌山県の熊野に詣で、閏9月23日には熊野本宮で一切経(いっさいきょう)を供養しました。
作者の慶俊は古来笙の制作者として有名です。平安時代、西暦でいえば12世紀前半に活躍した人で、奈良の菩提山の僧でした。菩提山は奈良市菩提山町にある龍華樹院正暦寺のことと考えられます。ここには平安時代の後期から鎌倉時代にかけて、慶俊以外にも笙の制作に巧みな僧が住んでいたようです。
さて、井伊家には「元永丸」のほかに慶俊作の笙がもう1点あります。「永冶丸(えいじまる)」の銘をもつ笙がそれで、これには「永冶元年(1141)10月11日、岡前(おかざき)の僧慶俊が作り、国里に伝えるものである」との銘文が記されています。岡前の地名や国里という人物については、今のところ明らかではありません。
慶俊の笙は、平安時代に遡る古例として貴重なものです。これらの笙を見ていると、王朝の雅やかな笙の音が聞こえてくるようです。
(齋藤)
馬
期間 1990年5月9日(木)〜6月11日(月)
今年の支(えと)は午(馬)。子・丑・寅……12の支のうち、ちょうど真中におかれた馬は、古来人間と最も深いかかわりをもった動物とされていたのでしょう。日本には弥生から古墳時代にかけて大陸からもたらされ、軍馬などの乗用として広まっていきました。また、その美しく俊敏な姿から信仰や美の対象としても重んじられています。
このテーマ展では、馬を描いた絵や、騎乗に用いた馬具、江戸時代の馬術書など25点を展示します。当時の人々がいかに馬に親しみ、重視し接していたのか、その一端をご覧ください。
茶人の好み
期間 1990年6月14日(木)〜7月16日(月)
茶の湯をたしなむために、さまざまな道具が用いられます。これらの茶道具は、茶を点(た)てるために必要な道具であるばかりでなく、茶の湯の雰囲気を生み出す重要な役割を果たしています。どのような道具を、いかなる取り合わせで用いるか。そのために、古来、茶人は人知れぬ苦心と創意を重ね、やがておのおのの茶人に適(かな)った好みの茶道具を生み出すことになります。それは後世に受け継がれ、茶人の好みとして定着しました。
このテーマ展では、井伊家に伝来する茶道具のなかから、没後400年を迎えた千利休(せんのりきゅう)、奇麗さびを標榜した小堀遠州(こぼりえんしゅう)、大名茶人片桐石州(かたぎりせきしゅう)などの茶人が好みとした茶道具をとりそろえて紹介します。作品の背景にひそむ茶人の感性を追慕してみてはいかがですか。
■関連講座
1990年6月23日(土) 午後2時から
「茶人の好み」
講師 学芸員 谷口 徹
場所 本館講堂
「天災と文化財」
期間 1990年7月19日(木)〜9月16日(日)人類は、これまで数多くの天災に遭遇してきました。それは人に被害を及ぼしただけではなく、人類が営々と築き上げてきた文化財をも一瞬にして破壊しました。井伊家伝来の文化財もその例にもれません。明治以降、これらの主要なものは東京にありましたが、大正12年の関東大震災によって多くが焼失してしまいました。わずかに刀剣や陶磁器などが、震災の激しさを物語るように痛々しい姿となって、いまも井伊家に残っています。このテーマ展では、これらの罹災品をあえて展示することにより、天災と文化財について、いま一度考えていただこうと想います。
■関連講座
1990年9月1日(土) 午後2時から
「天災と文化財」
講師 学芸課長 難波田 徹
場所 本館講堂