彦根城博物館だより

Hikone Castle Museum News 23

1993.11.1


button 四天王寺伝来の琵琶「望月」
button テーマ展螺鈿
button テーマ展吉祥のデザイン
button テーマ展雛と雛道具
button 企画展琉球王朝の美

王朝の音色
四天王寺伝来の琵琶「望月」

image

 平安時代の貴族たちにとって、横笛(おうてき)や箏(そう)、琵琶(びわ)は、日常の身近になくてはならぬ必需品でした。王朝の物語文化をひもといてみると、これらの楽器が、それぞれの場面で情趣をかもしだす重要な役割をはたしているのがわかります。

 絵巻物にも楽器を手にする雅びやかな貴族たちが登場します。たとえば紫式部(むらさきしきぶ)の『源氏物語』を絵画化した「源氏物語絵巻」の「宿木(やどりぎ)」の段(徳川美術館蔵)。画面は急角度に区切られた屋台の一角、2人の男女が描かれています。匂宮(におうのみや)と中君(なかのきみ)です。夕霧(ゆうぎり)の家の婿になって帰らない匂宮を中君は心憂(う)くおもっています。秋の夕暮、中君の心をなぐさめようと匂宮は琵琶を奏でます。聞き入る中君。秋風が御簾(みす)をそよがせ、庭前の植込には秋草が咲き乱れています。あたかも離れてゆく2人の心を思わせるように。そして、この静かな空間に琵琶の音の余韻が伝わってゆくのです。

 画中の琵琶が、この場面の2人の微妙な心理の綾(あや)をあらわす重要な役割をはたしているといえるでしょう。

 紫式部とならぶ清少納言(せいしょうなごん)の『枕草子(まくらのそうし)』にも琵琶について記された部分があります。    弾(ひ)くものは琵琶、調べは風香調(ふこうちょう)、黄鐘調(おうしきちょう)、蘇合(そこう)の急(きゅう)、鶯の囀(さえず)りといふ調べ・・・・・・・(217段) 弦楽器の代表に琵琶をあげているのです。「風香調、黄鐘調」は調子の名、「蘇合、鶯の囀り」は蘇合香(そこう)・春鶯囀(しゅんのうでん)のことで雅楽の曲名です。「急」は雅楽の序・破・急の3段構造の終曲部分。

また、清少納言は琵琶の名器に関する回想も記しています。    無名(むみょう)といふ琵琶の御琴を、上の持てわたらせ給へる、みなどしてかき鳴らしなどする、といへば・・・・・・・(93段) 「みなどして」は、試しなどしての意。琴は弦楽器のこと。「無名」は、平安時代前期の琵琶の名手として名高い蝉丸(せみまる)の所持した琵琶として著名でした。

 井伊家伝来資料には、29面もの琵琶が伝えられています。これらは、12代藩主井伊直亮(いいなおあき)(1794〜1850)の収集したものです。

 さて、そのなかで「望月(もちづき)」の銘のある琵琶は伝来品中の古例のひとつです。撥面(ばちめん)の図様はかすれてわかりにくいのですが、銘の「望月」にふさわしく、金の霞に銀で満月をあらわしています。

この琵琶には、大阪・四天王寺の嘉永2年(1849)の譲状が付属し、次のようないわれが記されています。     琵琶、銘望月、一面     但し当山の旧記にいう、建久八丁卯(ひのとう)の歳(とし)、源頼朝卿、御参道の砌(みぎり)、皇太子の御宝前に献ぜらる これによれば、「望月」は、建久8年(1197)、源頼朝が四天王寺に参詣した際に、皇太子、すなわち聖徳太子をまつる聖霊院に奉納したものであるというのです。ところが『吾妻鏡(あずまかがみ)』によると、頼朝が鎌倉から上京したのは、建久8年ではなく同6年の東大寺再興供養に際してでした。この時、5月20日に頼朝は政子とともに四天王寺に詣で、太子聖霊に剣を奉納したとあります。

年次が2年異なり、しかも『吾妻鏡』に琵琶奉納のことはみえていませんが、四天王寺には頼朝奉納の伝えがあったものでしょうか。(引用文のうち漢文は読み下しにしました)

(齋藤 望)

このページのトップへもどる


テーマ展
螺鈿(らでん)
 期間 1993年11月27日(土)〜12月24日(金)

image

 みなさんは、海辺の砂浜で貝殻の採集に時を忘れたことはありませんか。貝殻が私たちを夢中にする要因のひとつに、貝殻の内側に輝く真珠色の光沢があります。光の具合によって、また見る角度によって、微妙に色調を変え、神秘的な色彩を放ちます。

 貝殻のこのような魅力にとりつかれたのは古代人も同じでした。彼らは貝片を加工してさまざまな装身具を作りだしましたが、中国周の時代の頃から、貝片を器物に嵌(は)め込んで飾ることをはじめました。これが螺鈿です。

 螺鈿の「螺」は螺旋(らせん)状の貝類をさし、「鈿」はちりばめるというところからついた名です。つまり夜光貝や鮑貝(あわび)、栄螺(さざえ)などの螺旋状の貝の内側にみられる真珠色の部分を板状にして研磨し、これをさまざまな形に切りとり、素材に嵌めこんで文様を構成する装飾技法です。

 もともと螺鈿は、奈良時代に中国大陸から伝来した技法ですが、平安時代の中ごろにはじまる和様(わよう)の文化の中では、蒔絵(まきえ)と結合して日本独自の優美な美しさを創り出しました。以来、螺鈿装飾は日本の漆工芸の重要な技法として大きな展開をみせ、さまざまな作品を美しく飾ってきたのです。

 このテーマ展では、井伊家に伝来する武器・武具や茶道具、調度品などの中から、螺鈿のほどこされた漆工芸品を集めてその精華を展示いたします。

このページのトップへもどる


テーマ展
吉祥(きっしょう)のデザイン
 期間 1994年1月1日(土)〜2月1日(火)

 松竹梅、鶴亀、桐に鳳凰、富士の山。我々の身のまわりは吉祥と結びつく文様で満ちあふれています。たとえば井伊家の家紋でもある橘。常緑樹で、秋には黄色にかがやく実をつけますが、長寿と幸福の常世国の象徴とされたといいます。「吉祥のデザイン」は今年で3回目をむかえます。新春のひととき、寿づくしの世界をご満喫ください。

このページのトップへもどる


テーマ展
雛と雛道具
 期間 1994年2月4日(木)〜3月7日(月)

image

 恒例のテーマ展「雛と雛道具」を開催します。今回は、写真の作品のような井伊家伝来の雛道具85件とともに、県下に伝わるさまざまな雛人形もあわせて展示をする計画です。この機会に、みなさんのご家庭に眠る雛人形についても調査をさせていただければと考えております。ご所蔵の方は、ぜひ博物館までご一報ください。

このページのトップへもどる


企画展
琉球王朝の美
 11月23日(火)まで

 遠く南島の地に、独自の歴史と文化を築いた琉球王朝。この企画展では、旧王家である尚家伝来の美術工芸品などを一堂に会して、琉球王朝時代の精華を余すところなく紹介しています。この好機に是非ご静観ください。

このページのトップへもどる


目次